第16回海事振興セミナーを開催しました
IMOの広報と国内海洋観光の可能性について講演
(公財)九州運輸振興センターと海フェスタくまもと実行委員会(会長:大西一史熊本市長)では、熊本市において、日本財団の支援と助成を受け、国際海事機関(IMO)事務局長 關水康司氏並びに東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授の矢ケ崎紀子氏を講師にお迎えし、「第16回海事振興セミナー」を開催致しました。
今回は、平成27年海フェスタが、熊本県有明海沿岸地域で開催されることを記念し、同フェスタ協賛事業として7月19日(日)の第55回九州運輸コロキアムに引き続き開催したものです。 第1部では、關水康司氏により「IMOの広報活動」をテーマに講演頂きました。 講演では、先ずIMOが国際連合の専門機関で、1958年に発足し、現在171か国が加盟して、主として国際的な海上交通安全、海洋環境保護、船舶の航行安全ためのルールづくり等を行っていることやアジアでは初めて關水氏が事務局長に選出されたこと、日本の海の日に併せて開催されたIMOの世界海事デーなどパラレルイベント開催のため今回来日したこと等、IMOの組織と今回の来日目的及び關水事務局長の自己紹介等が行われました。 その上で、IMOにおける広報活動について、写真を使用して以下の内容で紹介が行われました。
・IMOの広報活動は、年4回発行されるIMOニュースレターのみという弱いものであったが、広報にも力を入れるべきと1978年に「世界海の日」を制定し、毎年式典を開催している。これまで20年くらい実施してきた。その間2005年からは世界海の日のパラレルイベントをポルトガルでを開催し、その後、今年の日本まで、これまで11回開催しており、今後も2020年まで開催地が決まっている。このパラレルイベントの中で海運の重要性、海運の振興などを取り上げた広報活動を行っており、今年の日本での開催は大成功であった。
・どのような組織であろうと、特に公的な活動を行う機関にとっては広く一般にその活動内容などをわかってもらうことは極めて重要であることから、IMOにおいてもここ数年は広報活動を充実させようと取り組んでいる。
・一般の人たちに海事の重要性をわかってもらうためには、海事に興味を持ってもらう必要があり、広報活動の中でその工夫が必要である。その一つにその国が持っているマリタイムヘリテージ(海事遺産)を活用、広くPRしていくことである。この場合、海事遺産と併せ、その背後にある人々の生活、産業などについてもスポットを当てると興味を持ってもらえるのではないか。 今後パラレルイベントを開催する国においては、必ずその国の海事遺産PRしてもらうことにしている。ちなみに、本年の日本開催では、わが国の海事遺産の殆どを写真集としてまとめ、発行して貰った。
・2012年の事務局長就任以来、さらなる広報活動に力を入れて取り組んでいる。具体的には、ソーシアルメディア(フェースブック、ツィッター、フリッカー等)を最大限利用し、IMOで会議等様々な活動展開を、その都度プレスブリーフィングとして会議のサマリーや議長のスピーチなどを出している。
・また、海運の振興、海事の振興、海洋活動の振興を考えると広報は極めて重要であると思っており、事務局長として各国を訪問した際には事務局長自体を広報大使と考え活動を行っている。各国を訪問した際には必ず写真を撮り、また撮ってもらって、これを基に自身のブログで情報を発信している。
・IMOには大使がいない。そこで新しい重要な活動展開として、各国に海事大使(マリタイムアンバサダー)を任命して貰いIMOで登録するという「マリタイムアンバサダースキーム」を作った。 マリタイムアンバサダーの活動の一つとして、小中学校等でIMOの活動や海事の必要性・重要性などを広報して貰っている。
第2部では、矢ケ崎紀子氏により「海洋観光の可能性」をテーマに講演頂きました。 講演では、本題の説明に入る前に、「海洋観光」の説明と海洋観光の手段のねらいが説明されるとともに、国民の海への関心が薄らいでいる状況にあることから、わが国の領海・排他的経済水域図を示し、改めて国民の多くがこの地図のイメージを頭に、また、心に刻んでほしいとの話があった上で、以下の講演が行われました。
・毎年、日本海事センターで実施している海に関する国民意識調査結果から、海洋が非日常になっていること、海洋が非日常であれば、非日常体験を楽しむ観光を活用し日常に近づけていくことができるのではないか。
・観光の力とは、@まず海洋を理解する、Aそして好きになる、Bその上で他の資源と繋ぎながら面的に他の産業や雇用といった面で経済的効果作っていくということである。
・自然景観、乗船体験、海の生活文化、離島の歴史・文化などの資源が海洋観光に活用できるが、そのポイントとして@どんな体験ができるのかなどを前面に出し、行ってみたい・チャレンジしてみたいという気持ちにさせること、A体験の舞台等を活用する際に、コントロールされたスリル、管理された冒険と安全とわくわく感がセットになって行われること、B説明力、翻訳力、ガイド力が必要である。
・わが国観光の特徴として、日本人の旅行消費額は大きく、国際的にみるとアメリカ、ドイツに次いで日本は3位になっている。これを海洋観光に活かすことができれば海洋観光は大きなマーケットとになる、A国内観光の宿泊旅行実施率が低下傾向にある、B宿泊旅行は、個人手配が90%程度である、C外国人旅行者は、2014年には1,300万人を超えた。インバウンドについては、2020年の政策目標である2,000万人達成が視野に入ってきたが、達成した後にこれを定着させることが重要であり、海洋資源、海洋観光はこれに大きく貢献できるところがある、D国・地域別の訪日外客数は近隣諸国が大半であり、台湾、韓国、中国、香港が4強である。
・日本交通公社のアンケート調査によると、海洋レジャー等で、行きたい県、地域は、沖縄県の次にハワイやグアムが挙げられている。日本には多くの素晴らしい海洋資源を持った地域があり、これを訴求し、広く伝えることが必要である。九州で考えれば九州の素晴らしい海を九州の自慢と掛け算して九州にしかないオンリーワン海洋観光を考えていくべきであるが、例えば、九州には繊細でやさしく美しい多島海があり、また反面雄大で圧倒的な外洋があるので、これを商材として、観光資源の開発をした上で、これにストーリー性を持たせ・高めて訴求していくとともに、人にわかりやすく伝えて行くことが重要である。
・海洋観光振興の方向性については、ねらい別の方向性として大きく二つあり一つ目は「経済活性化・海事産業振興」があるが、これについては、陸とくみ、また、クルーズ振興の推進を図ることが重要である。二つ目は「海洋の管理に関する国民意識の向上」がある。これについては、教育効果を高める商材を開発することが重要である。
(以上に加え、女性、特に母親への海の良さを遡及していくことが重要であること、父親の育児参加としてパパ子旅の推進、海辺で暮らしている人や海で働いている人などの地元住民が、海のよさ等を語れる媒介者となる必要性等などについて講演されました。)
最後にまとめとして、「海洋への国民意識を高めるには,最初の一歩をクリアすること、その時に観光の力を使うこと、使う力としては体験型により海洋を楽しんでいくということが重要であり、結果、国民が海を理解し海への愛着を深めて行くことになる。これから先『アジアの時代』といわれたときには『海洋の時代』といわれるようになってほしいと思っている。海事産業振興等のために参加者の皆様には観光と組んだ取り組みを進めて頂きたい。本日の講演がその一助になれば幸いである。」と締めくくられました。
参加者から、「今後の海事産業や観光を考えていくうえで大変参考になる良い話であった」等非常に有意義な講演であったとの声が多く聞かれました。 なお、当日は、参加予定の70名を大きく上回る約120名の方が参加した、海フェスタ協賛に相応しい大盛況なセミナーとなりました。
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