高齢者、障害者等が安心して日常生活や社会生活を送れるようにするためには、施設整備(ハード面)だけではなく、その困難を自らの問題として認識し、心のバリアを取り除く「心のバリアフリー」の取組を広げることが重要です。
当センターでは、この「心のバリアフリー」社会の実現を目指し、九州運輸局との共催により、令和7 年10 月29 日(水)、鹿児島新港奄美・沖縄フェリーターミナルにて、旅客航路事業に従事する船員等を対象に「バリアフリー講習会」を開催いたしましたので、その概要をご報告いたします。
〇開催概要
1.開催日時:令和7年10月29日(水) 9:00~11:55
2.開催場所:鹿児島新港奄美・沖縄フェリーターミナル、マルエーフェリー会議室、クイーンコーラルクロス(船内)
3.対 象 者:鹿児島県内の旅客航路事業に従事する従業員(職員)等 36名
4.目 的:講話および車いす・高齢者疑似体験を通して、バリアフリー及び介助等に対する理解を深め、助け合いの心を醸成する(心のバリアフリー社会の形成)
5.共 催:九州運輸局と公益財団法人九州運輸振興センター
6.協 力:鹿児島県旅客船協会、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団、障害者の生活と権利を守るかごしまの会、鹿児島県介護実習・普及センター、マルエーフェリー株式会社、マリックスライン株式会社、鹿児島県、鹿児島市、国土交通省九州地方整備局
7.プログラム(9:00~11:55)
9:00 開講式(主催者挨拶等)
9:10 座学(「旅客船事業者に求められること」)
講師:公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団
障害者の生活と権利を守るかごしまの会
10:00 体験学習(「高齢者疑似体験学習および車いす体験学習」)
講師:鹿児島県介護実習普及センター
11:40 閉講式(質疑応答、体験者の感想・講評)
8.講習概要
参加者は、座学と実習を通じ、高齢者や障害者の方との接し方・注意点などを学ぶとともに、令和6 年4 月から事業者に義務化された合理的配慮への提供に適切に対応にするため、障害者差別解消法についても知識を深めました。
座学では、まず、交通エコロジー・モビリティ財団の高橋徹氏より「旅客船事業者に求められること」と題して、「エコモ財団の活動」や「バリアフリー法」及び「障害者差別解消法」等について解説がありました。
合理的配慮の提供にあたっては、障害のある方と事業者等との「建設的対話」が重要であり、対話を重ねながら相互理解を深め、共に対応案を検討していくことが求めらます。
社会には多様な人々が存在することを前提に、障害の種類ではなく、その人が何に困っているかに着目することが大事である。また、最適な接遇・介助に繋げるため、以下のような心構えが求められます。
・お客様の人格を尊重することは、接遇・介助において最も重要で基本的なことである。
・お客様の困難に気づき、勝手な思い込みや判断をせず、何を必要としているのかニーズを的確に把握すること。
・お客様ができることは自主性に任せ、介助は必要な部分のみにとどめること。
これらの研修を通じて正しい知識や技術を身につけ、必要なサポートを提供できるようになって欲しいとの期待が示されました。
続いて、髙橋講師の司会進行のもと、障害者の生活と権利を守るかごしまの会の所﨑事務局長(車椅子利用者)ほか要氏(知的障害者の保護者)、春田氏(視覚障害者)による座談会が行われました。
ご自身の障害の特性や日常生活で不便を感じる場面、旅客船の利用状況や移動時に困っていること、注意していること、交通事業者の良かった対応、困った対応など、当事者目線での移動における困りごとや旅客船事業者に知ってほしいことなど貴重なお話が紹介されました。
次に、体験学習では、鹿児島県介護実習普及センターの指導のもと、フェリーターミナル及び船内での移動におけるバリアを体感し、適切な接遇・介助に必要な知識や技術を身につけることを目指しました。
まず、高齢者疑似体験学習では、体験用キットを装着し、フェリー「クイーンコーラルクロス」船内での移動などを通じて、加齢による身体機能の低下が移動に及ぼす影響や身体的負担について学習しました。
さらに段差や通路の傾斜などが車いす使用者にとって、大きな障
壁となること、上肢に障害がある場合、手腕による操作や作業が難しく、エレベーターやトイレ、券売機等の操作ボタンが困難な場合があること等を学習しました 。
高齢者や車いす使用者等への対応にあたっては、利用者の要望を的確に把握し、利用者が何を必要としているのかよく確認することが大切であり、 利用者の立場に立った対応を行うことの重要性をあらためて確認しました。
参加者からは、
・普段、段差や坂道をあまり気にするようなことはないが、高齢者や障害のある方にとっては、ほんのちょっとした段差でもバリアになるということがわかった。
・バリアフリーや合理的配慮の提供について年々浸透していると感じていたが、当事者の話を聞いて、まだ当事者にしかわからない課題が残っていると実感した。
・座学で「もう少し係の人から進んで手助けをしてもらえるとありがたい」という声を聞き、率先してコミュニケーションをとることの大切さを感じた。
・どういう声かけが助かるのか、どの場面で時にサポートが必要なのかを、座学と体験を通じて確認できた貴重な機会だった。
といったような感想が寄せられ、高齢者や障害のある方の特性を理解し、配慮ある接し方を考えるうえで、心のバリアフリーの重要性を再認識する貴重な機会となりました。
〇2024年度センター調査より「旅客航路事業者における障害のあるお客様への合理的配慮に関する事例集」も是非参考にしてください。
https://drive.google.com/file/d/1-HJTm0rBFboc4EFyZxcC6J6yPhNWGift/view