第27回海事振興セミナー(九州クルーズセミナー)開催報告
令和7年7月29日(火)、福岡市において第27回海事振興セミナー(九州クルーズセミナー)を開催しましたので、概要を報告いたします。
本セミナーは、公益財団法人九州運輸振興センターが日本財団の支援・助成を受け、九州クルーズ振興協議会との共催により実施したもので、クルーズ市場の持続的発展と地域への貢献をテーマに、最新の動向や今後の展望について情報共有を行いました。
○ 日 時 令和7年7月29日(火) 14:00 ~ 15:00
○ 会 場 オリエンタルホテル福岡 博多ステーション
○ 主 催 公益財団法人 九州運輸振興センター 九州クルーズ振興協議会
○ 後 援 JR九州
○ プログラム
講演1
講 師:国土交通省海事局外航課 課長補佐 楠山 賀英 氏
テ-マ:日本のクルーズ市場の持続的発展に向けた有識者検討会(R7.2月~6月)の検討結果と将来に向けた取り組みについて
講演2
講 師:クルーズトラベラーカンパニー株式会社 チーフコンサルタント 本郷 芳人 氏
テーマ:①関係者が喜ぶ寄港地観光
②クルーズ誘致に繋がるアウトバウンド対応
○ 参 加 者 自治体・関係団体等より 80名
【講演概要】
国土交通省海事局外航課課長補佐 楠山賀英氏からは、日本のクルーズ市場の持続的発展に向けた課題と方向性についてご講演いただきました。令和7年2月~6月に開催された有識者検討会の中間とりまとめをもとに、クルーズ市場の回復状況や今後の方向性、地域との連携による成長戦略などについて詳細な説明がありました。
まず、クルーズ市場を取り巻く市場環境について、世界のクルーズ人口、日本人のクルーズ人口の推移、クルーズ旅客の各国別の年代・期間の平均、日本におけるクルーズ船の稼働推移、日本のクルーズ事業者による船舶供給状況や供給増に伴う旅客数予測等について紹介がありました。その後、楠山氏が事務局を務めた「日本のクルーズ市場の持続的発展に向けた有識者検討会」の設置目的、検討経過、取りまとめ内容について、説明がありました。
検討会の取りまとめのポイントとして、これまで日本のクルーズ産業は、主として「現役引退後のシニア世代の楽しみ」としたラグジュアリー船を中心に普及・発展してきましたが、これからは、ラグジュアリー及びプレミアムクラスの日本船、プレミアムおよびカジュアルな外国船により、ファミリー層、ヤングアダルト層等を含めた幅広いターゲットに訴求する商品づくりが期待され、「多様化のフェーズ」へと発展していくことが示されました。
「2030年日本人のクルーズ人口100万人」の目標達成に向け、行政、事業者・業界団体がそれぞれ取り組むべきこと、推進していくにあたっての具体的な手法など、関係者が日本のクルーズ市場の将来像を共有することの重要性が強調されました。未来像を共有することで、より一層、前向きに取り組んでいくきっかけとなる旨、述べられました。
検討会の取りまとめを背景に取り組むべきこととして、「2030年の訪日旅客数6000万人」を目指す中、日本人を含む旅客を受け入れることで人や文化の交流が活性化する。これを歓迎し、地域が裨益する流れを生むために、行政機関のみならず、観光、輸送事業に携わる関係者一人ひとりが地域活性化の担い手となり、主体的に行動することの重要性を述べられ、講演を締めくくられました。
クルーズトラベラーカンパニー株式会社チーフコンサルタントの本郷芳人氏からは、「関係者が喜ぶ寄港地観光」「クルーズ誘致に繋がるアウトバウンド対応」をテーマにご講演いただきました。乗客の国籍・ニーズに応じた寄港地観光のあり方や、アウトバウンド需要の可能性、多言語対応といった受入体制整備について、具体的な事例なども交えてご紹介いただきました。
まず、「関係者が喜ぶ寄港地観光」として、「喜ぶ関係者は誰なのか」、「寄港地観光の現状はどのような状況か」、「寄港地観光利用率を上げるために出来ることは何なのか」について解説がありました。クルーズ関係者に対し、相手の現状や今後希望することなどについて、時間をかけてしっかりとヒアリングを行うことが重要であり、船会社・乗船客に合った観光コンテンツ資料を作成し、提案することが求められていること。また、寄港するからには経済効果が大きくなることが重要であり、地元観光施設や受入れ施設、DMO等に、クルーズ寄港時の対応をしてもらえるよう十分に説明を行い、クルーズ船が寄港すれば「売り上げが上がる」と思ってもらえるようにすることが不可欠であると力説されました。
次に、「クルーズ誘客に繋がるアウトバウンド対応」として、昨年からの外国籍クルーズ船の日本への発着事例をもとに、発着する地域に乗船客がいなければ、乗船客のいる地域・国へ運航するようになるなど、日本発着の見直しの動きがあることが指摘されました。一方で、乗船客が6名いたことで、船会社が興味を示し、寄港に繋がった事例も紹介され、クルーズ誘致に繋がる対応として、①寄港時に多くの県民・市民に来てもらいクルーズと触れ合ってもらう、②クルーズセミナーなどを開催する、③地元旅行会社でクルーズ販売を増やす、などの取り組み事例について紹介がありました。こうした取り組みを通じ、クルーズ船に乗る県民・市民が増えれば、船社も日本市場に目を向けるようになるだろう、と述べられました。クルーズ船の誘致活動は、「インバウンド」のイメージもありますが、インバウンドとアウトバウンドは表裏一体であり、「アウトバウンド」も必要だということを理解していただきたいと述べられました。
【センターより】
2024年の訪日クルーズ旅客数は前年比約4倍の143.8万人、クルーズ船寄港回数は約1.3倍の2,479回と力強い回復を示しています。こうした市場拡大に対応しつつ、環境負荷の低減、寄港地の魅力づくり、多様なニーズへの対応など、持続可能性を重視した戦略が今後求められています。
本セミナーを通じて、地域と連携したクルーズ振興への理解が深まり、今後の寄港促進や地域活性化の一助となることが期待されます。今後も九州クルーズ振興協議会等との連携を図りながら、情報発信等に努めてまいります。