観光大国に向けて −観光を我が国の基幹産業へ− 〜第58回九州運輸コロキアムで観光庁次長蝦名邦晴氏が講演〜
(公財)九州運輸振興センターでは、日本財団の支援と助成による「第58回九州運輸コロキアム」を、観光庁次長蝦名邦晴氏を講師にお迎えし「わが国観光施策の現状と今後の取組み−観光をわが国の基幹産業へ−」をテーマに、平成28年6月6日(月)、福岡市において開催いたしました。
わが国は今後人口減少・少子高齢化の進展により、経済の縮小、特に地域においてはその影響が大きくなるものと懸念されています。このような中、観光はすそ野が広く多くの産業に経済効果と多くの雇用を生み出すものであり、わが国経済の活性化の大きな柱として、また、地方創生の切り札として、国を始め官民挙げて観光の振興に取り組まれているところです。本年3月末には、安倍晋三内閣総理大臣を議長とした「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において「明日の日本を支える観光ビジョン」が策定され、政府一丸となって、また、官民が一体となって観光先進国への取り組みも行われているところであり、観光先進国である九州において観光振興や地域振興・活性化に取り組まれている方々の今後の取り組みの一助となるよう企画いたしました。
今回の講演では、始めに観光立国の意義は、成長戦略の柱、地域発展の鍵、国際社会での日本のパワー、自らの文化・地域への誇りであるが、わが国の社会・経済の中で観光の持つ重みが大きく変化しており、以前に比べその意義は随分変わってきていること等を説明し、現在の観光の重要性に触れたうえで、観光を取巻く現状として、今後の世界の観光市場は2030年に18億人と2010年の約2倍に増加するが、その伸び率はアジアが高いことが予測されており、地理的に優位なわが国はこれらの需要を取り込み、世界の観光大国に比肩するようになることが必要であることや、外国人旅行者数が世界1位のフランスは1,000キロメートル以内にある諸外国が8割以上を占めているが、日本は1,000キロ以内ということで見れば韓国が入ることくらいであり、日本は欧米に比べ地理的な不利状況にある。これを克服し、訪日外国人を拡大させるためには、中国を中心に、経済発展の著しい東南アジア、東アジアの国々等域外からの誘致が重要であるなど観光を取巻く現状とその課題等について述べられました。
また、訪日外国人数が増加することは大事なことであるが、観光の意義の本質は「観光による消費」であり、これをどのようにしていくかということが議論になる。昨年の訪日外国人旅行消費額3.5兆円のうち、中国が約4割と、加えて、中国以外のアジアからの観光客による消費の割合も大きいことから、今後これらの国、地域からの消費がポイントになる。また、これらの国々の消費の内容をみると「買い物」のウエイトが高くなっているが、他方、欧米系は宿泊・飲食のウエイトが高くなっている。今後のインバウンド戦略を進める上では、このような消費行動を踏まえることも必要である。インバウンドを輸出産業として見た場合、3.5兆円という消費額を輸出額としてみると、わが国第5位の自動車部品に相当し、‘20年の目標である8兆円となると化学薬品に比肩することとなり、自動車産業に次ぐ大輸出産業になると期待され、今後のわが国輸出産業の重要な一角となるものであることなど外国人観光客増加による経済効果について述べられました。
その上で、観光立国の実現に向けた政府のこれまでの取組み状況と、本年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」、本年5月に決定された「アクションプログラム」について紹介されましたが、これらについては、ビジョンは方向性を3つの視点に分け10の改革項目について整理されていること、また、ビジョンではこれまでの「観光立国」ではなく「観光先進国」という言葉を用いているのは欧米系の観光大国に並んでいこう意味を含めていることを説明されました。 最後に、熊本地震により、大きな被害を直接受けている熊本県、大分県を始め予約キャンセル等により間接的な被害を受けている九州各県の旅館・ホテル等について、5月末に策定された「九州の観光復興に向けての総合支援プログラム」により、応急的取組、当面の観光需要回復に向けた短期的対応、より魅力的な観光地域としての復興・発展を支援する中長期的対応について説明があるとともに、政府一丸となって取り組むこととしていることを表明されました。 講演後の討議(意見交換)では、参加されていた観光カリスマの鶴田浩一郎氏、(日本旅館協会九州支部連合会会長、ホテルニューツルタ社長)とビジットジャパン大使の町孝氏(JR九州ビルマネジメント株式会社社長)から意見が出され活発な意見交換の場となりました。
今回のコロキアムは、地方自治体の観光振興担当部所、旅行業者、ホテル事業者、バス事業者、鉄道事業者、タクシー事業者、航空事業者など地方自治体や観光・交通事業に関係される方々等約100名が参加(70名予定)されましたが、参加された皆様には今後の取組みなどに大変参考になる非常に有意義かつ貴重なものとなりました。 なお、会場では、前回のコロキアムと同様、参加者の方から、熊本を中心に発生した地震により被災された皆さまへ支援される日本財団設置の募金箱に募金を頂きました。
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